解し得ようもなかった。彼等にとって、正隆がいてもいないでも、その純粋な楽しみは同じである。小さい子供達が、友達を呼んで飯事《ままごと》をしましょうよ、というような心持で、彼等は正隆をお客様にしたのである。
然し、正隆には、どこか間違った最初の一圧えで、すっかり様子が変っていた。彼にとって、この席は、決してそんななまやさしい飯事ではない。憎むべき、彼の影の人の悪計に満ちた饗宴である。
あんなにも楽しそうに、あんなにも親切そうに、麗わしい表情を活躍させて、もてなした夫人さえも今はもうただ最後にここで痛い目に逢わせようために使われた傀儡《かいらい》とほか思われない。握った拳を袴の折目に埋めながら、正隆は焔を吐くような視線で、ハッタと夫人の横目を睨まえたのである。殊更、美くしい婦人の前で赤恥を掻かせて、職務上から免職はさせられない自分を、追い払おうとする気なのだろう。
思わずも、またうまうまと羂に掛った自分に、噛み捨てるような冷笑を与えながら、正隆は女がするようにキリキリと眉を吊上げた。が、然し、坐を立つことは出来なかった。毛虫が塊ったようにしかめられた眉が、研《みが》いたような夫人の瞼
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