一種の不安と、いわるべきものであったろう。彼は、仲間の年長者達が、数年若輩である自分に向ける、試問的な眼をきらっていた。表面は、好意と助力とに満ちているらしく振舞いながら、内心では私に、自分と彼とを計量器に掛けるような態度。正隆は、たとい、どれほど同情するらしく、
「いやお困りでしょう。当分は誰でも閉口しますよ、まあもう暫くです」
などと、言葉の不自由を想いやってくれても、裏ではきっと、自分の鈍《どん》を笑っているに違いないのだ、と思わずにはいられない。何も、それを証明する実証は上らないでも、正隆は、総てをそんな風に思わずにはいられない気分になって来たのである。
多くの人の中には、実際そんな者もあったかも知れない。けれども、決してそれが全部ではないということは、断言出来る。
けれども、正隆は、それ等の種類を鑑別するだけ、自分を開いていなかった。自分の魂に、日の目が差さないように封鎖した彼は、また他人の心へ、光線を送り、見出すことは出来ない。絶えず揉まれる、落付かない、不真実な周囲を感じる正隆は、凝《じっ》と、寂しい、腹立たしい心を噛みながら、同僚に背を向けた。
彼は、温みのない、
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