を、多く、幾度となく破滅させた瞬間の忘我、その切迫と、予期とに、あの、丸らかな夫人が、胸をときめかすのを見たいのである。
 どうだ!
 正隆は、訳の分らない亢奮で顫えた。
 畸形な歓楽である。
 圧殺された愛、未練、復讐の快さ、寂寥、損傷の――ああこの心持!
 正隆は、歯をがつがつと戦《ふる》わせながら、足音を忍ばせて、家を抜け出したのである。



底本:「宮本百合子全集 第二巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第二巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
入力:柴田卓治
校正:松永正敏
2002年1月7日公開
2003年7月13日修正
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