かも知れない。輝やかしい、清浄な女性の存在と、彼女によって洗われる生活の光輝とを予想しながら、自らの暗さに跼んでいることは、正隆には堪え得ないことである。
 そこで彼は、地上のあらゆる女性の霊魂を虐殺してしまった。魂ぬきの、肥えふとった白い肉体の所有者とした。歎く心も、恨む魂もないものとして、正隆はただ、自分の圧え得ない情慾の、消耗器として女性の全部を見下したのである。
 正隆は、強いても、人間の本能の暗澹たる力の一方のみを肯定しようとした。人間を獣以下にこき下げようとしたのだ。けれども、それは、彼が人間である間は、苦痛なしに出来ることではないだろう。
 どれほど高貴な生活をする女性でも、どれほど、霊的な生活をする女性でも、彼女等が女性である限り、同一の衝動の前に、髪を振り乱す者だと思おうとはしながら、正隆は、さすがに、家庭の幸福を乱そうとするほどの無恥にはなり切れなかった。育ち始めた芽のような少女達を見ると、彼は自ずと、自らの心を刺されずにはいられなかった。それ故、信子夫人を失って以来、彼の性的生活は、自ずと著しく低級な処に、その対象を見出すようになって来たのである。
 そこで正隆は
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