、気を入換えて仕事に努力しようとしないばかりか、正房を放ったまま、酒を飲み、女に耽ることを、非常な自堕落、無感動として、攻撃したのである。
「けれども、それなら、誰が、俺の一生を通じて責任を持ってくれるのだ? 自分が希望を持って努力すれば、丁度好い加減の処で、がらがらと崩して絶望させてくれるだろう。絶望させて置きながら、絶望しておれば、貴様等はまた、それで咎める。結局、それならどうしろというのだ。世の中は世の中は、善いことをしても、そのまま歓びはしないのだ。それかといって、悪いことをすれば、なお、わいわいと騒ぐだろう、手足の出ない処へ押込めておいて、出ないのは悪い悪いと云ったって、それは無理だ。俺は思う。人間なんて浅間しいものだ。自分が馬鹿に出来る者だけ見せて置けばいつも安心して、偉そうなことを云って納まるのだ。俺は何も出来ない、出来ないのではない。させないのだ」
 正隆は、彼の生活の記念ともいうべき正房を、瞳子《ひとみ》のように心の中では愛していた。が、彼の教育に、その存在に、何の注意も払うまいと、努力した。何故? 彼は、自分の手、心を触れることによって、少年の未知の運命を狂わせるこ
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