まったのである。
 母未亡人の手に依って齎らされた者は、また母未亡人の手で、雑作なく、取り除けられる。正隆が、もう激く乱暴になって、到底将来の希望もないから、そんな廃人の配偶として置くには忍びない、という未亡人の説明で、信子はまたもとの高槻家に戻ったのである。
 未亡人は勿論、信子も、彼女を受取った彼女の両親達も、処置の適当な事で、満足していた。正隆が狂気、或は少くとも、頭のどこかに狂いが来ていることを認めている周囲は、誰一人として彼女の取捌きに苦情を云うものはなかった。さすが、佐々の未亡人だけある、義理が堅い、という賞揚が、彼女の周囲に渦巻いた。彼女自身もまた、勿論、その義理堅いことを自信して疑わなかったのである。
 けれども、彼女が、それほど速刻に、信子夫人の離婚を承認した、むしろ、勧告したということには、何か、もう少し複雑な原因があった。それは、彼女自身も、自覚しなかったことかも知れない。が、然し、永年、彼女の唯一の寵愛物《ペット》として、正隆に、彼女のあらゆる感情を注ぎかけていた未亡人は、彼の結婚によって、或る埒外に置かれた自分を見出さずにはいられなかった。彼女は、勿論、正隆の
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