昭和十五年度の文学様相
――現代文学の多難性――
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蠢《うごめ》く
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四〇年十二月〕
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今年の文学ということについて大略の印象をまとめようとすると、一つの特徴的な様相がそこに浮んで来るように思う。
それは作品と作家との間に生じた問題とも云える種類のものである。私たちが偏らない心で今年の文学を思いかえしたとき法外・格外の傑作、問題作、前進的作品というものは作品活動一般についてなかったと判断するにかかわらず、作家たちの動きは特に今年の後半に到って夥しく、両者の間の動きの形は、作品がその自然の重さで水平動しているところへ作家の動きは上下動的であって、作品と作家との動きの間に見のがすことの出来ない一つの開き、角度が現れて来ていることだと思う。そしてこの二つの動きの間に計らずも現出している開き或は角度が来年の文学の成長にとって案外深い連関をもつ性質をふくんでいるのではないかと考えられる。
現代文学のこれまでの動きの様々の時期をかえりみ
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