象からも示されている。文学常識の急激な落潮、日本文化の低下の激甚さはもっと注目されなければならなかった本年の問題である。
評論のそういう努力の方向にかかわらず、そこにも困難と混迷の時代的な色がある。例えば作家研究を飽く迄文学の中で行おうとする正常な意企をもつ評論家が作家のタイプに関心をひかれて、タイプの共通にかかわらずそこに模する本質的なものについて余り注目を深めなかったり、歪曲された功用論への是正としての芸術本質論の方法において、文学の経た歴史の刻みを逆に辿る形をより強く示めさざるを得なかったような現象は、今日の紛糾を明日へ向って勁《つよ》く掴む歴史的な感覚の弱さでは小説の弱さに通ずるものとして、私たちを深く省みさせる点だろうと思う。
現代文学が波瀾をしのいで成長するには、過去という語感でなく明日へという感覚での客観的な健全な歴史感で今日が把握され、その情熱の裡に創造力がはぐくまれてゆくしかないだろうと思う。そして、そのような可能は、作品の水平動と作家の上下動との個々に目をうばわれず、それを総括して現代文学史の一頁によみとろうとする努力にもかかっていると思う。[#地付き]〔一九四
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