る誤りを含んでいたとしても、新しい社会生活の感情がそのような芸術理論をも生んだのであって、小林多喜二の「蟹工船」「不在地主」徳永直の「太陽のない街」村山知義の「暴力団記」「東洋車輌工場」その他多くの新しい文学作品が現れた。中野重治の「蝶番い」「根」「鉄の話」黒島伝治の「橇」その他、これらの作品はそれぞれ歴史的な意味を持った。当時のこの文学運動の特徴は、職業的な作家が外から大衆の生活を描こうとしたのではなくて、大衆の生活そのものの中から自身の生活のみのりとしての文学を導き出そうとしたところに、文学に於ける一つの流派以上の文化的本質での前進があった訳である。従って当時の大衆は、玄人の書いた作品を買って読む文学の消費者として存在していなかった。文学の生れる広い、深い歴史的な地盤としてあったから、大衆の中からの文学的萌芽というものは実に盛んに芽生えた。今日も、文学作品は非常な売行きを見せているが、そこでの大衆は購買力を持ったものという意味で客観的には現れているに過ぎない。自身の文学を作ってはいない。
文学に於けるこの問題はいずれ後段に触れられることだと思うが、当時のこの機運は、例えば婦人作家
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