の誕生にも影響した。それまでの婦人作家が概して有産的な環境の中から生れ出ているに対して、この時代の潮は勤労的な生活の中から婦人作家を誘い出して、窪川稲子の「キャラメル工場から」等はその代表的なものだと思う。
そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作家と作品を成長させて来たばかりでなく、当時既に作家としてある程度の活動と業績を重ねた作家たちをも、各自の角度に従ってこの文学運動の中に引き入れた。先に触れた藤森成吉、秋田雨雀のほか片岡鉄兵はかつて属していた「新感覚派」から転じて「綾里村快挙録」を、細田民樹は大衆的作家の傾向を持ちつつ「真理の春」を、宮本(中條)百合子は人道主義的なリアリズムの道を、新しい段階に踏み出した。
興味あることには、この時代の旺な脈動が、例えば上司小剣、島崎藤村、或は山本有三、広津和郎等に案外の反映を見出していることである。
明治文学の記念塔である藤村の「夜明け前」が執筆され始めたのは昭和四年、新しい文学の波の最高潮に達した時期であった。明治のロマンティック時代から作家生活を辿って来たこの粘り強い小説家が、云って見れば彼をもその波の下に置こうとするような
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