常に論争の中心となって来ている。新しい文学の理論は、過去の芸術性の永遠普遍という観念に対して、その一般論を否定して立ったのであったが、当時は、作品の内容としての世界観、形式としての芸術性という風な、過去の二元論に足を取られていて、芸術性というものの本来の在りようは、作品に於ける内容と形式との特殊な統一の仕方から生じるもの、芸術作品にとって芸術性は先行的にあり得るものではなくて、芸術作品が芸術作品となってゆく成立の条件に根ざしたものであり、芸術的価値の本質的な属性をなすものであるという、芸術そのものの創作過程の中での有機的な姿で見られるものであることを理解し得ていなかった。
 新しいリアリズムの提唱で、過去の主観的なリアリズムから客観的な現実把握の求められたことは、日本文学の発展の為に抹殺されることの出来ない歴史の歩み出しであるが、「階級的主観に相当するものを現実の中に発見する」という表現も、創作方法の問題としては、あらゆる現実の生きた姿を現実にある儘の錯綜した相互関係で、動いている有様の儘そこに一定の洞察と意思を持って描くという方法と混同された不明瞭さがあった。
 未熟であり、よしやあ
前へ 次へ
全73ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング