、生き生きとした芸術的形象というものは、その作品が芸術的感銘を与えるために必須な条件と見られてはいるが、翌年この理論の発展として云われた新しいリアリズムの提議では、新しいリアリズムの本質を十九世紀以降の個人主義に立つリアリズムと異った社会的主観に立つべきものと規定した。そして、「現実に対する態度はあくまでも客観的現実的でなければならない。」「現実をわれわれの主観によって歪めたり、粉飾したりすることではなくて、われわれの主観――階級的主観に相応するものを現実の中に発見するのが」新しいリアリズムの態度であるとされた。
 当時のこの芸術価値のきめ方を今日顧れば、「文学的作品の観念を芸術の言葉から社会学の言葉に翻訳し、その文学的現象の社会的等価とも言うべきものを発見することにある」という規定そのものに明らかな誤りが含まれている。この規定によって文学が芸術品としてそれ自身持っている独特な機能が抹殺されており、芸術的感銘の必須な条件として求められている芸術性というものも、科学が科学性を持たなければ科学でないと同様に自明なことという範囲の解釈に止った。芸術性というものは、文学史のあらゆる時代を通して
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