社会的な素材を捉えながら文学としての特質はその作者の持味めいたものに置かれているというのも、当時の作品らしかった。「麦と兵隊」は、この作家が戦場で報道部員として置かれた条件を最もよく生かした成果の一つであったと思われる。この記録はあくまで小説ではない記述としての立前で書かれており、一兵士としての見聞と人間火野としての自然の感情とがそれぞれに盛られている。従って、戦場の光景はそのものの即物的な現実性で読者の感銘に迫って来るし、一方作者によって絶えず意識され表明されている人間自然の情感というものはその描かれている世界への近接を感じさせる十分の効果をもっていた。この二つの要素が作者火野によって常に意識されていることは、この作につづいて書かれた「土と兵隊」、「花と兵隊」等にも一貫して認められる。しかしながらこの二つの要素への意識はどちらかといえば素朴な両立の形で存在していて、その意識は文章の独特な人間的文学的ポーズを感じさせる。更に私たちの注意を惹かれることは、火野の文章のあらゆる場合、戦場の異常性というものが抑えられて描かれている点である。人間が、どのような強烈な刺戟の中にも馴らされて生きる
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