たなかった。同人たちの作家としての活動は、プロレタリア文学に反対であるという一事では、その社会的な生活感情を等しくして結ばれていたが、その他の面では云わば各人各様で、或る作家は芸術至上を説き、或る作家は科学・機械文明との新しい結合で文学を見ようとし、或る人は新心理派へ眼を向け、作家の資質に従ってエロティシズム、グロテスクな追求も行われた。
この「新興芸術派」がその文学的な対立物であったプロレタリア文学運動の消長と共に、その後の二三年間に解体したことは、その後今日に到る間にかつての同人たちが辿り来っている作家としての足どりと眺め合せて、感想をそそられるものがあると思う。
今日知性の作家と称せられている阿部知二、行動主義とヒューマニズムを唱えた舟橋聖一、「人生劇場」によって自身の世界を作った尾崎士郎、「多甚古村」の作者である井伏鱒二等が、やがて一昔の十年前は、この「新興芸術派」に参加していたことも、さまざまの意味で顧みられることだと思う。
二
満州事変は昭和六年に起った。この事件を契機として日本では社会生活一般が一転廻した。昭和七年春、プロレタリア文学運動が自
前へ
次へ
全73ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング