いると云えない。それは、最近行われた「小林多喜二的身構え」という言句をめぐる論争の性格を検《しら》べて見てもよくわかる。小林多喜二は人民解放史と文学史との上にうけとられているというより、もっと生々しく、現代の心理のなかに生きている。不幸にして、その心理は、日本人民がファシズム権力にひしがれつづけて来た被抑圧的屈従の複雑なコムプレックスをふくんでいる。その心理的コムプレックスには率直にふれそこから解放されようとしないで、「文学理論」で饒舌に表現するよくない習慣ものこっている。
 全集の普及は、わたしたちすべての人民が、歴史における運命を一歩前進させるための足がかりとして小林多喜二の生涯と文学とを、あらゆる角度から多面的に摂取するための何よりの機会である。
[#地付き]〔一九四九年二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年11月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
   1952(昭和27)年5月発行
初出:「小林多喜二全集月報」第二号
   1949(昭和24)年
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