り同じ径路を繰り返す。
可哀そうになって、私は雛の剥製を籠から出してしまった。そしてもう見えない処に置き、また様子を窺った。
余程空腹であったと見え、戻った雌が再び下りて来る。実に注意し、気の毒なほど頭を動かし、そろそろ逃げる用心をしながら枝から枝へと伝って来るのである。先刻の黄色い変なものがいないことだけは分ったのだろう、元よりは低く降りた。而も、まだまだ下に降り切ることが出来ず、躊躇し、躊躇して足を踏みかえている。ところへ、彼女の連れ合いが来た。やはり覚えていて下を見る。が、二度三度場所をかえて覗くと、勢をつけて、さっと餌壺の際に下り立った。そして、粟を散らしながらツウツウと短い暖味のある声で雌を呼び寄せるのである。
雌を驚かせて、気の毒には思うが、自分には、実に心深い見ものであった。こればかりでなく、新しく籠に入れられ、自分達の巣を定めようとする時にも、雌雄はその態度が異う。雌が、ふるくからいるものに驚かされて、やたらに籠中を逃げ廻ったり、そうかと思うと呑気そうに羽づくろいや身じまいなどをする間に、雄は、攻撃的に、動的に、自分等の住居を決めようとする。文鳥が始めて来た時など
前へ
次へ
全8ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング