小鳥
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)時雨《しぐ》れる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二二年四月〕
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 午後から日がさし、積った白雪と、常磐木、鮮やかな南天の紅い実が美くしく見える。
 机に向っていると、隣の部屋から、チクチク、チチと小鳥の囀りが聞えて来る。二三日雪空が続き、真南をねじれて建った家には、余り充分日光が射さなかった。寒さや陰気さで縮んでいた彼等は、久し振りに障子もあけて置ける暖かさでさぞ嬉しいのだろう、雨だれの音、小鳥の声が、入り混り優しく響く。
 全く、彼等の天候に支配されることといったら、私以上の鋭さである。紅雀、じゅうしまつ、きんぱら、文鳥などが一つがい、二つがいずついる。少し空が曇り、北風でも吹くと、元気な文鳥以外のものは、皆声も立てず、止り木の上にじっとかたまって、時雨《しぐ》れる障子のかげを見ているのである。
 人間でも気が滅入《めい》り、火鉢の火でもほげたく思うような時、袖をかき合わせて籠をのぞくと、一層物淋しい心に打たれる。陽気な長閑《のどか》な日和の時には
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