つれていよいよ旺盛になる若者達の食欲を満すため、歓喜に充ちた忙しさをもった。××寺と小松屋とは見えない糸でつながれた二つの車輪のように調子よくこれまでやって来たのであった。ところが思いがけない一昨年の大地震で、何十年来のこのしきたりが破れた。××寺は丸潰れにこそならなかったが、もう迚も以前のように多勢の書生などを収容出来なくなった。同じ地点にあったのだから小松屋の方でも大打撃を蒙った。客室が皆平らにされた。貸蒲団、机などもめちゃめちゃになった。やっと、トタン屋根で三つ四つ座敷のある建物を拵えた。それでも、たまに机の借りてが出来ると、亭主と息子が、
「おい、机はあったかね」
「ああ、バラックん中に何かの下積みんなってらあ。だが――全体脚がついてるかしら」
と問答する有様であった。今は、僅の賄、宿泊客、飲みに来る××寺の僧などでもっていた。それ故、女中も主人達もいいことは尠い。一年に一度の祭礼は、村にとって正月より華やぐ行事であった。その日こそと、女房のいしは、前日魚もたっぷり手配して置いた。三味線を兎に角鳴らせるお柳は、わざわざメリンスの単衣まで気張った。そして、彼女達は、朝から待った。
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