子に、のりすぎていると云えないこともない。職場のひとらしい独特の味もあるのだから、いそがず又次々に実際生活での経験をじっくり作品にして行ったらいいと思う。
「開墾仲間寅公」 猪狩満直
私は北海道へ行ったことがあるので、作者が荒々しい開墾地をかこむ自然の雄大さなどを描こうとしている心もちがよく分って読んだ。然し、寅公が六年も辛棒した揚句に、折角辛苦した土地をすてて故郷へかえらねばならなかった程の濃厚な窮乏の気分が十分出ていない。一応とりあげられている、穀物の安価、馬を熊にとられた事件等だけでは読者に北海道へ移住した農民の深刻などたん場の有様がうつらないのである。それは主人公宗一の移民としての日常生活があまり深く現実的にかかれていないところからも来ると思う。文章に、移民生活らしい根気よさ、重さ、ねばりがにじみ出していないところも、全体の作品の肉づけをうすくしていると思った。
「市設紹介所」 和久井門平
小市民の下級知識労働者が、市の職業紹介所へ行って、かかりの者の官僚主義や、得たいのしれぬ情実採用に痛めつけられ憤る心持を、この作者は細々と書いている。憤りを押えて下手に出る求職者の心
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