めに、文章がよく考えてかかれたのでなくて、かき飛ばされているような印象を与える。
 この作者の応募詩の或るものを一寸よむ機会を得たが、小説の中と詩の中と、同じ表現が幾度もつかわれていることに注意をひかれた。必しも咎めることは出来ないが、現実を周到に観察し、それぞれをなるたけ正確に、活々と表現しようと努力してゆけば、自然とそういう欠点はなおるであろうと思う。
 終りの印象的にとらえられている場面は書きかたをもっと煩雑でなくするとズッと活きて来る。以上の点を考慮に入れ、予選作品の中では、まとまっている方であると思った。
「製本職工の創った小説」  谷英三
 この作は、はじめ筆をおろすときに、小説の終りの部分(つまり職場仲間がやられたのにただ手をつかねて見ているばかりであった製本工場内の実際の有様)までを一貫してハッキリ見とおし、そこへ来るまでのいろんな出来ごとを、その主な骨に結びつけて活かすように書いたら、きっと面白いものになっただろうと思う。作者はただ、あれの次このこと、このことの次に斯うなったと、ぼんやり事に追われて、並べている。元気のいい、若い調子は結構だけれども、この作ではすこし調
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