小説と現実
――小沢清の「軍服」について――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)凄《すご》んだり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四七年三月〕
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『新日本文学』に「町工場」という小説を発表した小沢清という若いひとが、「軍服」という小説をかいた。小沢清は勤労者の生活をしながら小説をかくようになった青年である。
 まだ試作というべき作品であるが、「町工場」は、へんに凄《すご》んだり力んだりしたところのない勤労者のこころもちで、小さい町工場での若い勤労者の生活と、そこにいる気のよい、しかし古くさく自分の貧乏を体裁でごまかしている先輩とのいきさつを描いていた。そして、年上とか貧乏とか、そういうことでこだわらず勤労者として互に理解したすけ合ってゆくのが本当だと思っている青年の心がモティーヴとなっていた。
「軍服」には十日間で免除された召集中の軍隊生活の経験がとりあげられている。この間までの数年間、日本じゅうの青年の恐怖や苦痛、忍耐の経験の一つの表現である。この題材がとりあげられたことはよかった。が、「
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