する間もなくお石への借金は倍にかさむことになった。アヤが死んだ。葬式の金がなかった。小祝の一家のために、ほかの誰から融通が利こう。
祖父ちゃんとミツ子を紐でおんぶった祖母ちゃんとが、火葬場からアヤのお骨をひろってかえって来た。
祖母ちゃんは、戸棚の奥へ風呂敷包みをつみかえ、前の方だけあけ、そこへ水色の富士絹の風呂敷をひろげてアヤのお骨壺をのせた。
乙女が今度通いはじめた郊外のけちなカフェーから早番でかえって来ると、祖母ちゃんはミツ子の足をだらりとたらしておんぶったままその前に坐って、
「――もう赤い布《きれ》っこも、いらねようになった……」
静かにそう云い、お骨壺から目をはなさず、
「ハあ……」
と溜息をついた。勇がかえって来て突立ったまま、見馴れなそうに、ばつ悪そうにアヤの骨壺を見た。それから、ピョコンと頭を下げて礼をした。
泣く者は誰もなかった。ミツ子は両肩の間に圧し込んだようなおかっぱを乙女の方にふり向けて幾度も、
「お! お!」
食いものでないのが残念という風に骨壺をよごれた指で指さした。
アヤの骨をどこへ埋めるにも、どの寺へ預けるにも、今や祖父ちゃん祖母ちゃんに
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