かなかった。
お石が、出入りするようになってから賃仕事を持って来て、祖母ちゃんと乙女とに稼がせた。木綿物一枚二十五銭で、糸はこっちで持つのである。けれども、この賃仕事は弁口のうまく立たない二人の女にとって何か恐ろしい仕事であった。きちんと約束の日早めに二十五銭もってお石がやって来た。
「へえ、ここへおきますよ。お使者を立てて、いながらのお仕事だから、御身分のいい方は違ったもんだね」
最後の糸を、祖母ちゃんが歯でかみ切り、縁ばたに出て仕立上った着物を、パタパタとはらうと、例によって焼酎をのみながら待っていたお石がすぐ、
「どれ?」
と検査した。自分で癇癖そうに畳みつけて、暫く敷き圧しをした。そして、帰りしな、仕立物の風呂敷を抱えて立ち上ると、片手を祖母ちゃんの、時には乙女の腺病質らしい鳩胸の前へさしつけ、
「おかず買ってかえるから二十銭おくれ」
お石は睫一つ動かさずぴったり顔を見据えてそう云うのであった。あまりのことにこちらはゴクリと思わず唾をのむ。対手に圧されてことわる言葉も出ないうち、むざむざとそこにある小銭の中から二十銭というものをとられてしまうのであった。
乙女がカフェー
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