な口調で夫の勉に訊いた。
同じテーブルに向って正面のところには、家じゅうただ一脚の籐椅子にかけて、勉が、やっぱり掻巻をドテラがわりにシャツの上から着て頬杖をついている。勉は、北国生れの色白な顔に際立って大きい口元を動かし、口重げに、
「いや。……やろうか?」
と云った。
「いいえ、いい」
二人ながら小柄な体へ掻巻をかぶった夫婦はまた黙りこみかけたが、今度は乙女が、
「――祖父《じっ》ちゃん、本当にミツ子こと小包にして送ってよこすかしんないね」
長い眉毛をつり上げたような表情で云い、不安そうに荒れている自分の唇をなめた。
「ふむ……」
「祖父《じっ》ちゃん……――何すっかしんないよ」
「…………」
テーブルの上に、塵紙のような紙に灰墨で乱暴に書いた貞之助の手紙があった。年よりならきッと書きそうな冒頭の文句も何もなしで、いきなり、度々手紙をやったがいつ金を送ってよこすつもりかと書き出し、東京で貴様はどんな偉い運動をやっているか知らんが、こっちでは一家五人が飢え死にしかけている。総領息子の貴様はどうしてくれる。金をよこさないのなら、手足まといのミツ子を小包にしてでも送りかえす。そのつ
前へ
次へ
全33ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング