と、一時に向う角の裁縫店の大飾窓に灯がついた。前に溜っていた群集は、俄に、見わけのつかない黒影のかたまりにとけ込んだ。
 白い羽毛飾ばかりは、まだその中でも、今燈火の海に燦めき、忽ち人ごみの闇にまぎれて、見えがくれしている。まるで巣を失った鷺のように。――

 ああ、その街は昼間歩いて見るとまるで別な処のように感じられた。
[#地付き]〔一九二三年十二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「八つの泉」
   1923(大正12)年12月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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