何人も認めると云われはしても、若し、母上の撰択のみに従い、母上の批評にのみよって居たら、恐らく自分の一生は、単に彼女の誇るべきY子にのみ終始して仕舞うのだろうとさえ思った。
其時分、自分は、親の愛と云うものに極度の反感を抱いた。それを包んで、彼女を立ててあげようと振舞うような性格に自分は生れ付いて居ない。Aを取るか、母上につくか。
自分は、どうして責任を以て開いた彼の新生活を絶望させられよう。彼が、私一人の愛によって、何が自分を待迎えるか予想もつかない新生涯に這入ったことを思うと、涙が湧いた。此点では、自分も同じだ。もう、母上の憤りと、涙と、哀願によって、愛人を捨てるには、自分は余り一人の人間になって居る。
彼女のヒステリー、私の精神の混乱。Aや父上の忍耐の幾日かの後、到頭、私共は自分等で、別に家を持つことになった。
AはA家の戸主で、移籍が出来得ない。それならば私は、もうA家の者になったのだから、良人の家に移るのが当然であり、Aが、結婚した以上、其位の責任は持つ覚悟だろうと、母上が提議されたのであった。
今、その時分のことを思い出すと、自分は、眼をそむけたいような心持さえす
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