や自分をニートな生活で育てたいと思う者は、どうしても、毎日の生活を、バーレンなものにはして置けない。食事にしろ、部屋にしろ、何しろ気を配る。「人」は、愛する者に奉仕せずには居られない。然し、一方芸術のことは、箇人の全的統一と燃焼とを要求する。
此処に、家庭の主婦として芸術に指を染めようとする者と、先ず芸術を本領とし、愛する者の伴侶であろうとする者との、截然岐るべき点がある。
福島からとりと云う五十歳ばかりの女中が来、自分の生活が一方にはっきりと重点を定めて仕舞うまで、今日考えれば、可哀そうな混乱をしたのである。
母上は、始めから、家などを持っては到底駄目だ、と主張された。当時、それは、直ちに、お前が結婚などをしたのは間違って居ると云う意味に通用したので、自分は、寧ろ決然として其に反抗した。
結婚こそ、自分に大切なのだ。心の中で、あらゆる異性に向って動揺するものがすっかり鎮り、落付くだろう。無自覚でするコケティッシュな浮々さが沈み、真個に延るべきものが、ぐんぐん成育するに違いないと信じて居たから、自分は、怯じて居られなかった。
今、恐らく一生、自分は此反省の誤って居なかったこと
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