自己を守り立てようと決心したからは、その力をレデュースし、そのロフティーネスを辱しめるような、あらゆる物は、仮令世上の如何な高貴であっても固辞しようと思ったのだ。
 処が、暫く暮して見、自分は、種々な不自由さが、我心の裡に植えられて居るのを発見した。
 第一、八百屋、魚屋、そう云う処へ行ったりすることが、ひどく困難に感ぜられる。
 なりふりにかまわない自分が、いつ誰が来るか分らないと思って机に向って居るのは、実にいやだ。
 そればかりでなく、ぴったりと生活が落付かず、何だか借りもののようで、不満が裡に満ちる。仕事も出来ない。
 此の状態は、自分にとって長すぎる程継続した。随分煩悶した。自分等の生活が肉感的なので仕事が出来ないのかと思ったり、Aが性格的に自分を煩すのかと思ったり。――然し今、自分には、それ等も少しはあったかも知れないが、要するに、現在日本の社会状態に於ては、芸術に携る女性は、主婦として全責任を帯びたのでは、決して仕事に没頭出来ないと云うことが分った。
 自分と云う人並、芸術家は、日常生活に於ても、人並に芸術家として存在する。
 女性らしい、或は自分のように家庭を愛し、良人
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