動物の居る様な所でなけりゃあ生えない蜜柑なの。
こーんなに太い蛇が居たり大きな鰐が居たり。
「どの位の大きさ。
「こんな小さいのもこんな大きいのも有るの。
きまって居ないのさ。
だけれどね、
大きいの程術が沢山出来るの。
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人指指と拇指でまるで針のめどの様な穴を作ったり、両手を後の方まで跳ね飛ばして非常な大きさを示しました。
弟は一寸面白い顔をして居ますけれ共真面目なので、私の問いに答える時々にはきっと云う言葉さえ気をつけて居るかの様に落ついて居るのです。
二人はゆるゆる芝の上を歩きながら話して居ます。
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「姉ちゃんにもくれない?
「さあ、
一体ねこれは誰にも教えられない事なの。
だけど姉ちゃんだから殊[#「殊」に「(ママ)」の注記]別にそんな金の蜜柑の有る事丈は教えてあげたんだけど……
自分で見つけて来なけりゃあ。
そいからねまだする事があるの。
こないだ地図見たら太平洋の真中があんまり明きすぎてるからあすこへ一杯国を作ってやろうや。
ね、そうしたら随分面白いだろうなあ。
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手足をピンピン振り動かして跳ね廻る程面白がり始めました。
遠くの方をながめながら、
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「彼方の方を真赤な真赤な袴をはいて青い着物を着た人が二人行けば好いなあ。
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とか、いきなり乾いた草の根元をのぞきながら、
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「や、彼那小人が居らあ。
皆鈴を下げて黄色の着物を着て居る。
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と云ったりします。
あたりに見る人はないのですし私だって幾らか気が軽くなって居るので、黒土の現れた所へ来ると、わざわざ腰をまげて手で目鏡を作りながら、
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「あら御覧なさい、
ここは真くらですよ。
まあ彼那お爺さんが提灯を持って行きますよ。
いつんなったら明るく成るんでしょうねえ。
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と云ったり、水道が藁の着物を着て立って居るのに、
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「あら彼那人が立って居ますね、
誰でしょう聞いて御覧なさい。
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と云ったりすると、その言葉を待って居た様に走って行って、大変丁寧なお辞儀をしながら半ば怖れる様な滑稽な形恰をして、
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