「もしもし貴方はだれですか、
百姓ですか、
オヤオヤ口がありませんね、どこがそうなんです。
ヤ貴方の口は竹で出来てるんですね。
そうですか誰ですって水道ですって?
姉ちゃん威張ってね、
『俺は水道だぞ、』
って云った。
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と云って来ます。
二人はもうすっかり気が合って仕舞って其那事を話しながら私の大好きな両側に低いつつじの列に生えて居る間を行ったり来たりしました。
あれだけの広さを自分達丈で占領してまるで違った世界に旅行して居るのですもの、つまらなかろう筈が有りません。
園丁が来て花にやるために水を温室に汲み込むのを見ては、
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「あんなに太った百姓が大よだれをたらして居る。
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と笑いこけます。
グーズベリーの様な小さくテロテロと赤い実を見つけ出して、
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「お姫様御機嫌よう。
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とお愛素を云います。
私は一瞬時もじいっとして居ない子供の心を非常に珍らしがって見て居ました。
いつもはこんなに絶え間なくお伽の中に入った事を云って居る事は無いのですから、この周囲の様子が余程力添えをして居るものと見えます。
先にいつだったか私と一緒に来た時もそうでしたが、多勢人が居て、ガヤガヤして居る時には只はしゃぎ廻って、私が止めるのをわざと写生をして居る人の顔をのぞきに行ったり、息を切らして下らない、
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「お馬鹿三太郎
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だの何だのと云っては兄達をおっかけて運動は充分つきますけれ共、草が奇麗だと大して思うでもなくワアワアと帰る頃にはヘトヘトになって、不機嫌で仕舞うのがおきまりです。
決して今日の様に枯れ枝を、
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「可哀そうにお爺さんの木や。
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などと云ったり草の芽生えを気づいて立派に生えてる等とは云った事がないのです。
そんな風で帰るまで凡そ二時間もの間、育ちかけの芽生えのお話やら空を飛んで行く鳥のお話やら、非常に子供らしいそれで居てなかなか利口な話をしつづけて居ました。
私共には只安らけさと歓び位ほか与えなかった彼の景色もまだ満八つにもならない驚き易い子供の頭にはどれ程の感激を与えたのか知れません。
私は私が数え年で七つの年、今は居ませんけれ共叔
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