の方だって偶《たま》の休みで、せっかく岡たちとも約束してあるのだから、事情を云って断ったのだ、ほかに仕様がなかったからね。それを今日まで根に持っているのだ。――
利口なようでも女は女だね!
やす子 それだけのこと!(疑しそう)
良 三 勿論じゃあないか!(力瘤を入れる)その時こう云ったのだ。僕も今日は偶の休みで、釣に行くところで駄目ですから、明日病院の方へ連れていらっしゃいってね。そうしたら、怒ったような声で、戸外《そと》が寒いのに風には当てられません、またいずれそのうちに致しますって云っていたっけが……一体、何さ、子供をなくした女親なんていうものは、誰の顔を見ても食ってかかりたいものだろうさ、泣きたいならいくら泣いても構わないが、見当違いの説法だけは聞かされたくないものだね……ああ、ああ(坐ったまま擬勢的な空|欠伸《あくび》をする)詰らない商売を始めたもんだ!
やす子 (良三の様子を苦々しげに見る)貴方。よくそんな平気な風をしていらっしゃれるのね、お気の毒じゃあありませんか。一寸電話ででもお悔みを云っておあげ遊ばせよ。あんなに子供を命にしていらっしゃる方が……可哀そうだわ。――何番?
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