度計りもね、赤いかさ[#「かさ」に傍点]に入ったのよ。
内部《なか》からでしょうか(灯に覗くようにする)外に傷はないわね。
良 三 (自らなる不安、頭を重ねてやす子と同じ処を見るようにする)どうしたのかな、変だね、急にこんな出血をするなんて、まだ新らしく出て来るかい?
やす子 そうでもなさそうですわ。
良 三 (頭をつや子から離し)今迄どうもありあしなかったんだろうね。
やす子 (憤然とする)そんな不注意だと思っていらっしゃるの? さっきまで平常《ふだん》の通りだったんですわ……(まるで異った、苦しげな涙のつまった声。一語一語力を入れて)貴方……だいじょうぶ?
良 三 何が?
やす子 何がって(睨《にら》むように顔を見合わせる)定《きま》ってるじゃあないの、若し……若し(泣き出す。急につや子を強く抱きしめ)可哀そうにね、つやちゃん、早くよくなって頂戴! ほんとにかあさんが願うことよ。堪らないわ、私。――痛いの? え? 痛むの?
良 三 (真剣になって来る)痛いから泣くのさ。
とにかく、大切なお前からそう上気《のぼ》せあがっては駄目だよ、確《しっ》かりしろ確《しっか》り!
ほい、ほい、つ
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