る。
 日本で大正頃から出版企業が膨脹したにつれて、文学・小説の創作水準に分裂がおこった。一方には、日本の全人口からみれば少い一部の文学好きの人々、教養の深い人々のために、純文学作品の発表・出版があり、一方では、より多くの大衆が、労働から解放されたときの気まぎらしのため、昔の庶民が寄席をたのしんだように、ごろりと寝ころがってすごす時間に読ませて儲けるようにと、いわゆる大衆小説が存在するようになった。同じウナギで儲けるにしろ、一方に大名式の「小松」というような店があり、一方に養殖ウナギのくさいのを「大衆的」にたべさせて儲けるニコウがあったのと同じようなものであった。

 純文学の作品をのせる雑誌は多く綜合雑誌で、政治、社会、経済等についての論文なども学者や名士の力作がのせられた。大衆小説のどっさりのる雑誌は講談社のキングその他新聞社、博文館などの娯楽雑誌で、そういう雑誌では同じ経済記事にしろ勤労大衆がそれで生活している労働賃銀とはどういう仕組みのものであるか、働く時間とその賃銀の関係はどうなっているか、というような論文は決してのせなかった。利まわりのよい貯金の工夫。月賦で家を建てる方法。
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