けて来た家族連れの群集で、夜の赤い広場がまたえらい人出だ。
 モスクワ市発電所の虹のようなイルミネーションが、チラチラ美しくモスクワ河の面に溶けている。赤色労働組合の総本部労働宮は、どうだ! まるで闇に浮き立つ光の宮だ! クレムリンの時計台にとりつけられたラジオ拡声器は絶えずピアノ行進曲を広場中に撒きちらし、
「帝国主義とファシズムの犠牲者に
 階級の兄弟プロレタリアートからの
 挨拶を! 世界革命万歳※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 国立百貨店の建物に張りまわされたプラカートの字が夜目にもハッキリ見える。
 懐しい日本語で、
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万国の労働者結合せよ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
[#ここで字下げ終わり]
と書いた幟も飾ってある。
 レーニン廟の赤いイルミネーションは、メーデーの夜、一時過ぎてもまだ絶えないモスクワの群集を照らしながら、
[#ここから2字下げ]
レーニズムノ旗高ク
五ヵ年計画ヲ四ヵ年デ!
[#ここで字下げ終わり]
と輝きとおしていた。[#地付き]〔一九三二年五月〕



底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)
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