おける作者の日本の女性・結婚・家庭観である。「人が生きるのは思想によってじゃなくってよ」「思想が、あたくしに何をしてくれたでしょう。あたくしは思想なんて形のないものは、きらい」「あたくしはむずかしい言葉はよく知っているけれども、自分で考えることは出来ません」「葦沢の父のうけうりで、いろいろなことを考えたりしていただけで、あの家をはなれてからそんなことについて考えてゆく興味もないの」「あたくしたち、日本の女として育ってきましたから、流されてゆくことをたのしむということのほかに人生のたのしみを見つけることはできないのですもの」
これらの言葉は、つめたい毒のようにわたしたちの手足をこおらせる。
同じ作者が書いた「生きている兵隊」という小説は、戦場の野蛮さと非人間さが、現代の理性とヒューマニティーを片はじから喰いころしてゆく、暴力の血なまぐさい高笑いを描いた作品であった。榕子の言葉は、こんにち、こんどは美貌の女の唇をとおして日本の中で、語られる極めてインヒューマンな発言である。自分の夫を、なぐったり蹴ったりして殺した下士官広瀬に復讐を思い立つが、「目の前で見ていると、それは男らしくて美しい
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