い新しい作家がおくり出されて来ているだろうか。自分は新しい日本とともに生れ出た新しい作家であると、そのように生々として、新しい作品をもたらす人はいたって少い。ここに今日深刻な問題がある。
今日の二十四五歳から三十代の人々は、男女ともに戦争のなかった時代の日本の青年たちとは、くらべものにならないほど多くの人生の経験をもっている。自分の生命を、一たん否定して闘っても来ている。餓死する人間も見たであろうし、その人たち自身、栄養失調で這って帰って来たかも知れない。何故そこから新しい文学が生れないのだろうか。歴史的な野蛮行為のなかにまきこまれて、苦悩し、ひそかに泣き、人間らしさを恋うた心が一つもなかった、とどうして云えよう。それだのに、何故それを書いた小説は出ないのだろう。これほど愛を破壊された婦人がいるのに、何故その声がほとばしって来ないのだろう。これこそ、きょうの私どもの実に大きな問題であると思う。
文学が書かれるには、現象の記憶があるばかりでなく、自分がそれをどう見るか、どう考えるか、そこから何を受けとったかという一つの経験に対する複雑な人間的摂取を経なければならない。そこから小説は生
前へ
次へ
全45ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング