一様ではない。マクベス夫人のようにおそろしい女から、リア王の三人娘のような諸性格、ロミオとの悲しい愛に命をおとしたジュリエットのような姫から、「ウインザアの陽気な女房たち」「奸婦ならし」の闊達おてんばな女、ハムレットの不幸な愛人としてのオフェリアなど、千変万化の女性があらわれている。
 ところで、きょう私たちがこのシェークスピアの有名な傑作「オセロ」をみると、その女主人公デスデモーナの運命について、実に痛切に感じるものがある。
 オセロはアフリカ生れの黒人の武将であった。勇敢な勝利者としてデスデモーナという、美しいヨーロッパの貴婦人を妻にした。ところがオセロの幕下にイヤゴーという奸物がいる。イヤゴーは単純で正直な人々の生活を、自分の奸智でかき乱して、その効果をよろこぶという、たちのわるい生れつきである。従順で、この上なく美しいデスデモーナと、黒いオセロの睦じい性格は彼の奸智を刺激した。機会をうかがっていたイヤゴーは一つのきっかけをとらえた。その不幸をオセロにうちあけないでいるうちに、イヤゴーはオセロの猜疑《さいぎ》と嫉妬《しっと》をかきたてることに成功した。黒人のオセロは、ただ良人として嫉妬したばかりでなく、一人の人間として、デスデモーナの浮薄さに自分の威厳を傷《きずつ》けられたことをも、たえがたく感じて遂にデスデモーナを殺し、自殺してしまう。オセロはシェークスピアの悲劇の中でも、イヤゴーの奸智、オセロの直情、デスデモーナの浄らかな愛情との点で、今日も活々とした感動を与える作品である。デスデモーナは一枚の見事なハンカチーフをもっていた。それはオセロがくれたもので、なくさないように、もしこれをなくしたら、あなたの愛も失われたと思うよ、という意味を云われて、愛のしるしとしておくられたものであった。イヤゴーの目がそのハンカチーフにひかれた。彼はもち前の巧みなやりかたで、そのハンカチーフをデスデモーナから盗んだ。そして、それはデスデモーナがそっとくれたもののように、周囲に思いこませた。
 ハンカチーフを失ったデスデモーナの当惑と心配とはいじらしいくらいだのに、デスデモーナはその大切なハンカチーフがなくなったことについては、ひとこともオセロに話さず、さがすことに協力をもとめていない。
 けれども、この悲劇をみているとわたしたち女性の胸は、デスデモーナへの同情にふるえるとともに
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