しょうか。
 男の人はよくこんなことを申します。
「女なんてひとりだと案外すごいんだね、随分だらしが無いよ」
 だらしがないと云うのは、家持ちのことをその場合云っているのです。例えば台所がピカピカしていないとか、洗濯物がたまっているとか、お副采をちゃんと拵えないで、罐詰ばかりや出来合のもので済ましたりしているのを云っているのです。こんなことも考えて見るとおかしい、何かユーモアがある。何故か、考えて御覧。若い男の人が一人暮ししていて、増して勤めていて、台所が汚いと云い罐詰を食べると云って、「あいつも相当だ」という人は無いでしょう。それは男と女は違います。でも、違いますというのは何でしょう。
 女は台所もきっちりし、自分が料理しているべきだという観念が、わたくし達女の気持にも強く這入《はい》っている。それをちゃんとやって行かぬと、自分自身も気持が悪いところがある。併し今日の世の中で、一人の女の人が一人でアパートを持ってともかく暮しているだけのお金をとって行く働きは、時間から云えば、八時から夕方五時過ぎまでは、仕事に就いていなければならないもっと時間的に長くて働きも烈しい職業も少くありません
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