てゆくと、茶色の石を脚の高さ二米ばかりの巨大な横長テーブルのような形に支えた建造物がある。近づいてこの厚い覆いを見れば、これはそれなりに記念碑であり又墓でもあった。石の屋根の下にいら草の繁みをわけて三十本あまり銃剣が地上に突出されたままになっている。ここで隊列を敷いていたフランス兵たちが生きながら瞬間に爆弾の土砂に埋められた。
更に一ヤードほど登った前方の草の間に、金の輪でも落ちているように光を放っているものがある。こごんでそれを眺め、私は覚えず息をつめた。
おおこれは一つの小さい銃口であった。生きながら埋められた生命が無限の思いを惻々と息づいている口である。目をとめたものは思わず心を動かされ、その訴えることの深い可憐なる銃口を撫でずにはいられない。ひとりでの力につき動かされてしている自分の振舞いに心付いて、私は幾千の手がこの忘れること難い金色の口に触れたかを思った。生きて強壮な人々は、平和のための会議を何故風光明媚なジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の湖畔でだけ開くのであろう。
やがてそろそろ薄闇の這いよって来た砲台の裏からまわって、傍のいら草の中に錆びた空罐などの散
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