本広いドライヴ・ウェイが貫いている左右の眺めは、大戦が終って幾星霜を経て猶そのままな傷だらけの地べたである。一本の立木さえ生きのこっていることが出来なかった当時の有様を髣髴として、砲弾穴だけのところに薄に似た草がたけ高く生えている。
 目の及ぶかぎりに沈黙が領している。少し出て来た風にその薄のような草のすきとおった白い穂がざわめく間を、エンジンの響を晴れた大空のどこかへ微かに谺《こだま》させつつ自動車は一層速力を出して単調な一本道を行く。
 ショウモンの大砲台の内部は見物出来るようになっていた。一行が降り立ったら、薄青色の制服をつけた二人のフランス兵がランターンを手に下げて来て案内した。
 秋の黄昏に廃趾の番をしていた兵士たちの肩のあたりが淋しそうである。ショウモンの砲台にはヴェルダン司令部があった。
 飲料の貯水池が砲台の奥にあって、撃破されたコンクリートの天井が黒い澱み水の上に墜ちかかっているのが、ランターンのちらつく不安定な灯かげの輪のなかに照らし出されて来る。
 グーモンへ着いた時には、落ちかかると早い日が山容を濃く近く見せはじめた。朝夕の霜で末枯れはじめたいら草の小径をのぼっ
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