い感じはなかった。成瀬氏の伝統で、「天才」だの「才能」だの美辞は横溢しているくせに、級の幹事が、ここで女教師代用で、髪形のことや何かこせこせした型をおしつけた。その頃の目白は、大学という名ばかりで、学生らしい健全な集団性もなく、さりとて大学らしい個性尊重もされていなかった。
学生というはっきりした資格でもなくて、その寄宿舎に暮したりしたニューヨークのコロンビア大学も構内の芝生が美しかった。第一次欧州大戦が終ったばかりで、人道的な英雄としてベルギーの皇帝・皇后がコロンビア大学に招待された初夏の光景は壮麗に思い出される。勇敢な看護婦・皇后エリザベスは小柄で華奢で、しかも強靭な身ごなしで、歩道によせられた自動車から降り立った。その背たけはすぐわきに立っていた私より、ほんの頭ぐらいしか高くなかった。どこでも、私はその学校ナイズすることが不得手で、大正の初めに苦しい少女時代を過したのであった。
[#地付き]〔一九四六年十一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮
前へ
次へ
全7ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング