コメディアをよむ。
神々の時代と、十三世紀のイタリーが
目のあたり甦って来る。
素朴な人間神の活動、意欲、生死と
厳しい地上社会のいきさつが、
人類を置く精神の赫きに照されて
はっきり 我ことと 思われるではありませんか。

又、今日は哀愁の満ちたベルレーヌの詩をよみ
ルドン、マチス、クリムトの絵を見る。
実に近代の心、思いが犇々《ひしひし》と胸に来る。
哀訴や、敏感や、細胞の憂愁は
全く都会人、文明人の特質で
古代の知らない病であると云うかもしれない。
然し、等しく、此等は人類の心の過程ではありませんか
我々は、彼の素朴と敏感とを並び祖先に持つ我々は
其等を皆、我裡に感じる。
奇怪な深夜の幻想、
訳知らぬ文明のメランコリア。
又、ともに
最古の原始をも愛し、憧れる。
野を愛し、部族の生活を思い出し
単純に、純朴にと
一方の心は流れ囁く。
而も、一方は無限の視覚、聴覚、味覚を以て
細かく 細かく、鋭く 鋭くと
生存を分解する、又組立てる。

  考 (一)[#(一)は縦中横]

若し日本人に
ヨーロッパ人のような哲学
神の意識がないなら
生粋ないままでよいと思う。
只、人類の真髄に触れ
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