だりした大きな家です。横手に板塀がめぐらされていて、通用門はそこにある。
 ずっと入って行くと、玄関のところで赤いネクタイをつけた可愛いピオニェールの少女と少年が声をそろえて嬉しそうに、
「あ、来た、来た!」
 そして、こっちへかけ出してきました。
「こんにちは!」
「こんにちは! あなたがたでしょう? 日本からきた作家たちというのは――」
「電話で知っていたんです」
「さアこっちで外套ぬいで下さい」
 われわれのまわりは忽ち珍らしそうにとりまいた十から十五六までの少年少女でいっぱいです。なかの一人が、
「じゃ私アンナ・ドミトリエーヴナにそう云ってくるわ」
 奥の方へかけて行きます。
 玄関から左手の奥の方は女先生、アンナ・ドミトリエーヴナの住居になっているらしい様子です。つき当りの窓に水栽培のヒヤシンスの瓶などがかざってある。
 子供たちから見ると丁度お祖母さんぐらいの年恰好の女先生が、きれいな白髪で、しかし元気そうな顔つきで出て来ました。
「ようこそ! 子供たちはさっきから待っていましたよ。どうしておそかったんです?」
「モスクワは大きい市ですから、三年いたってまだ迷子になったんで
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