返事をしたが、一種の表情で
「小幡さんがいらっしゃいました」
と、取次いで来た。愛は、瞬間、ふきの表情がぴったり自分にも乗移るのを感じた。彼女は、力を入れて其を振払うようにした。
「そう、お通しして」
出て見ると、照子は相変らず白粉けのない、さばさばした様子で、何のこだわりもなく
「今日は――いつぞやは有難うございました」
と挨拶した。愛は、楽な心持になった。
「どうなすって? あの晩、電車ぎりぎりだったでしょう」
「ええもう青でした――でも、おそいのはいくらでも馴れてるから……」
手芸の話などが一頻り弾んだ。ところへ禎一が帰って来た。
「やあ――どうです?」
照子は一寸愛の方を見、落付いた風で
「――相変らずですわ」
と答え乍ら微笑した。愛は、照子のその態度が、良人にも或印象を与えたのを感じた。
いつものように二人が聴き手で、照子は、京都で三月程、ひどく窮迫した生活を仕た経験談をした。
「じゃあ折角の京都も見物どころじゃあなかったわね」
「――ところがね、私はそんな中でも遊ぶことは随分遊びましたよ、嵐山へも行ったし、奈良へも行ったし……」
照子は、彼等を等分に眺め乍ら、我か
前へ
次へ
全10ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング