う癖があるのは困りものだな――若しそうとすれば……」

 小さい金入れの紛失から、彼等の蒙った金銭上の損害は僅少であった。中には、失望したろうと思われる位の小銭しか入って居なかった。ただ、机や用箪笥の鍵が共に無くなったのは不便であった。其とても、世間に同型のものが無いわけではない。――愛が心を曇らせたのは、小幡が此那ことで来なくなったりするのではないかと云うことであった。彼等にとって彼女は、無二の友というのではない。けれども、此小事件から足踏み出来ないとなると何だか淋しい気がした。如何云ってよいか――つまり、せめて金でも沢山あったらまだしもだが、あれっぽっちで妙な性格の暗さを曝露して仕舞ったこ[#「こ」に「ママ」の注記]ということが、変に痛ましいのであった。愛は、段々金入れをああいう処にうっちゃって置いた自分を悔む度が増した。

「――どうでしょう、照子さん、来るかしら」
「さあね」
「来るといいわ」
「然し、一人で置いとけないなんて、一寸厄介だな」
「何も置かなけりゃよくてよ」
 数日後のことであった。愛が茶の間に居ると格子のあく音がした。
「――御免下さい」
 手伝に来て居たふきが
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