ら、相当に話せる女になるだろうと思わせる女であった。その人と、僅かしか入って居ない金入れのちょろまかしとは、愛にとって実に意外な連想であった。意外であり乍ら、而も、途方もない事だと、其人の為、又自分達の為に恥辱を感じることもなく、二人の第一連想が期せずして其点に一致したのは何故だろう。
「――生憎、私が此辺を昨夜は片づけたんでね、一素何処にあったかまるっきり知らなければ却ってよかったんだけれど」
「――其那に困ってるんだろうか」
「そういう病気の人もあるわ、困ってなくったって」
「出ればいいね」
「そうよ! 本当に出れば私嬉しいわ、どんなに叱られてもいいから出た方がさっぱりするわよ」
 自分が台処に居た時、独りで食卓の前に来た小幡が、丁度あの隅の雑誌を見て居たのに、立って玄関に出た。
「なあに」
「――ハンカチーフ」
 其那問答をした、細かいことまで明瞭に思い出され、悉く意味ありげに感じられて来るのが、愛には苦痛であった。
「これにお前も懲ればいいさ」
 愛は悄気《しょげ》て
「ほんとうよ」
と答えた。
「人には出来心って奴があるから、つまり此方がわるいのさ。――ただ、――どうもそう云
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