、十月頃彼が帰るまで、我々は、ヨネ・野口をおいては親しい仲間として暮した。種々な恋愛問題なども、率直に打明けられるほどであった。然し、アタール氏とはこのまま会う機会もなく、殆ど忘れ切って過していたのが、突然、自殺の報道とともにのった写真で、その時の彼をリコグナイズしたのであった。その刹那に、自分は、狭い部屋に窮屈そうに横坐りに坐って、日本語は少し役に立つが、文字と来たら、怪物のようにむずかしいと、ぎごちなく話した彼の姿や顔を、涙ぐむ程、はっきり思い起した。――



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:不詳
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全6ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング