そこへ行き、中を覗いて見る。大抵の時は、白い丸い顔をした彼が誰か一人二人の友達と遊んでい、自分を見つけ、笑う。入って行って、その時分でさえ、小さく窮屈だった椅子に横にかけ、机にのしかかり、話の仲間に入る。――
そういう昼休みの時、校舎の、多分北裏にあった、狭い、荒れた花壇は自分にとって忘られないものであった。
弟を誘ったり、独りでも、よくそこに行っては長い時間を費した。よくは分らないが、二十坪足らずの空地に、円や四角の花床が作られ、菊や、紫蘭、どくだみ、麻、向日葵のようなものが、余り手を入れられずに生えている一隅なのである。
小使部屋を抜けて、石炭殼を敷いた細い細い処を通っても行けたし、教室の方からならば、厠の傍の二枚の硝子戸を開けてもそこに出られた。一方の隅の処は、嶮しい石崖になっていて、晴れた日には遠く指ケ谷の方が目の下に眺められる。杉か何かの生垣で、隣との境が区切られている。ぶらぶらと彼方此方歩き、眺め、自分はよく、ませ過ぎた憂愁の快よさに浸ったものだ。彼方には、皆の、恐らく子供の、領分がある。自分はここで、枯れかけた花を見、ひやひやするこみちを歩き、自分にほか分らない
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