ら、小使が閂を抜いてさっと大門を打ち開くのを今か今かと、群れて待ち焦れている心持は、顧みて今、始めていとしさが分る。
いよいよ時間が来、小使の一人が、ぱらりと手拭でも肩にかけながら此方に向って出て来ると、私共は亢奮し、犇き合って扉の際まで詰めよせるのが常であった。恐ろしい緊張が皆を支配する。やがて、一尺か二尺、二枚の扉に隙が出来る。と、誰かが勇者の勢でそこから内に辷り込む。どっという笑声や喝采。あとから、あとから。ちゃんと門が開き切った時分には、恐らく誰一人往来に立って待ってはいないだろう。
入ってしまえばもう安心し、砂利の上で肱を張り張り歩いて左の方に行く。――
女の下駄箱は正面の左手にあり、男のは右手の方にあって、そこを抜けては小使が教室の用事を足した。両方ともが狭く、薄暗く、雨の日や冬は、寒い位ひやひやした。丁度、図書館の書物蔵のように、高くまで大きな箱が幾通りにも立ち、バタン、バタンと賑に落ちる蓋つきの小さい区切りが、幾十となく、名札をつけて並んでいるのである。
下のタタキに下駄の音をさせてその間に入り、塵くさいような、悪戯のような匂いを嗅ぎながら、柔かくなった麻裏を、
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