徒になって見る。そして、秋の末頃の朝、弟と二人で、武蔵屋の横丁から斜に東片町の大通りを横切って、突当りに学校が見える横通りに出て見よう。
何といっても、朝は門が開かないうちに行くのが嬉しかった。十分か十五分、級の違う他の子供と一緒に傍のトタン塀によりかかったり、門の中を覗いたり、地面に踞んだりして、小使が出て来るのを待っている。外から小使部屋が見えたように思う。その時分、小使は、特に朝、権威をもって楽しそうに見えた。三四人、彼方此方歩いて用事をしたり、笑ったり、時々自分達の方を見ながら、煙草をふかして、煙管を掌の上ではたいたりしている。扉の傍に潜り門がついていて、先生は、一せいに生徒のお辞儀を受けながら、やや急いで、そこから内に入って行かれる。一生懸命目をつけて、左手の事務室の傍の入口の方を見る。恐らく小さい喧嘩も起ったことがあろうし、私は私で、大人ででもあるかのように鹿爪らしい顔付をしていたことだろうが、隔った眼から眺め下すと、一様に愛らしく感じられる。
入れもしないのに早く来て、それを誇りに思う心持も微笑まれるし、暑かろうが寒かろうが、小門から出入する気などは毛頭起さず、ひたす
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